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活動報告
地声寸言『原発視察』

 今から二十年ぐらい昔、私が団長で自民党の有志数名で欧米各国の原子力発電施設(以下原発という)を視察することになった。当時、国内では原発の安全性についての与論が分かれていただけに、とに角原発先進国ではどうなっているか、を知りたかったのである。将来のエネルギー源としては、風力、太陽光、潮流などいろいろあるにしても大勢としては原発が主軸となるという見通しがあったからである。
 (以下当時の資料が手元にないので、いささかうろ覚えで、不正確なところもあるが、と思う)
 最初に訪ねたのは、カナダでトロントの重水炉(キャンデュウ炉)である。
 わが国の原発が軽水炉であるのと異なったが、いずれ重水炉も造っていいではないか、という議論があった。確か三、四キロ離れたところに上水道の取水口があるが、住民は不安を感じていないという。トロントの街はお蔭で水力発電と合わせ、極めて安い電力となっているので、夜間も大抵の家で電灯がつけっ放しとなっているそうで、現に夜半となってもビルはこうこうとして明るかったのを覚えている。
 次は、ドイツのライン河畔のビブリスの原発を視た。六〇万キロワット二機の発電所で二次冷却水を直接ライン河に出していた。当初、漁獲の減予想が原因で補償金を支払ったが、冷却水の排水口あたりの水温が四度ぐらい昇り、却って魚の水揚量が増え、だまされたようなもんだと発電所の人は苦笑いをしていた。
 もっとも、原発に対するアレルギーは無くはなく、毎年夏休み頃となると、外国からリクリエーションを尋ねて学生が大勢やって来て発電所を取り捲き、反対気勢を挙げるが、それ以上暴力的な行為はないという。
 原発の幹部に私が稼働率についてやかましく質問したが、秘密であるらしく、遂に解答をえられなかった。
 その次はスェーデンのストックホルムの原発による地域暖房で大規模なもので、ヨーロッパ各国の中でもテスト的、先駆的な施設であった。
 最后に原発の国フランスで、パリの壮大な原子力研究所を視た。われわれが素人集団であることに心を許してか、通常外来者には見せないという機密部分まで見せてくれたらしいが、猫に小判みたいなもので、われわれにはよくわからなかった。正規職員だけでも七千人、雇を入れれば一万人はいるという、その規模に一驚した。
社会党出の大統領さえ原発推進の方針は崩さず、エネルギー源としての原発のウエイトは極だって高い国であった。ただし、その立地はほとんど国境に近い地帯にあるというのが、興味を曳いた。
 いずれにしても、各国の原発に対する取扱いは日本よりも遥かに厳しくなく、安全性を疑う声の少なかったようなのが印象的であった。
 福島原発の大事故に際会して、いろいろなことを想起するこの頃である。
 私は、然し、将来のエネルギー源としての原発の重要性は地球温暖化対策などの面からも変わるものではないと思うので、今回の災害を反省の契機として、その原因を徹底的につきとめ、二度と災害を繰り返さないような対策を各国協議して打ち樹てるべきであると思う。
(平成23年3月31日)

相沢英之