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活動報告
地声寸言『消費税の引き上げ』

  消費税の引き上げは現在の国の財政状況からみて必要ということで、民主党政権がマニフェストに載せようとしている。しかし、消費税はいわゆる大衆課税といわれ、逆進性が問題化され、今迄その創設、税率の引き上げ、いずれの時においても、それに言及した政権が選挙で敗れたという過去の実情をよく知っているだけに、各党ともいわば、それに触れることは多分にタブー視していた。その点、少しあいまいではあるが、民主党が税率10%への引き上げを公約している(どうも、もう1つハッキリしないが)のは、事の良し悪しは措て、立派なものだという見方もある。
 私は、今の段階において消費税を引き上げることは反対である。もし、そうしたら、消費の減退は確実であって、それでなくてもデフレ基調にある日本経済をさらに沈滞に追い込んでゆくことは必死である。
 又、消費税を引き上げる場合、軽減税率を設けることが、当然のことのように言われているが、これが又、さらに大問題となる可能性がある。例えば生活必需物資について、軽減税率を設けると言えば、さて、何が生活必需物資か、ということになるが、そうでないものとの間の境界が甚だ問題となって、新しい不公平感を生むことになる。ここで、昭和33年7月7日に公布された法律108号取引高税法を1つの例として掲げてみる。
 当時、わが国は連合軍総司令部(スキャップ)の支配下におり、税制も勿論その指示のもとで作られていた。
 この法律により、営業者が営業として行う取引には取引高税が課せられることになった。税率は取引金額の100分の1、つまり1%であった。
 ただ、いくつかの取引については非課税となっていたが、その中に、これから私が問題として採り上げる「そ菜及び鮮魚介並びにみそ、しょう油、牛乳その他の臨時物資需給調整法(昭和21年法律32号)に基いて配給される食料品及び燃料で命令で定めるものの製造、取次及び販売」がある。
 これは、いわゆる軽減税率の適用対象ではなく、非課税の対象であるが、境界が問題となる点は同じようなものである。
 当時、私は京都市の下京税務署長をしていた。この取引高税の実施のため、取引高税係が設けられ、約30名の係長以下の職員がこれに当たっていた。原則としてあらゆる取引に課せられるため、1%という低い税率ではあったが、対象の補足には大へんなエネルギーが要り、又混乱があった。
 1つの例を挙げる。
 京都は筍と松茸の名産地である。下京署の管内にある京都市中央卸売市場は、この2つを「そ菜」ではなく、果実と認定し、取引高税を課した。しかし、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸の各中央卸売市場は、この2つを「そ菜」であることとして非課税とした。おさまらないのは京都の仲買業者であって、6大市場のうち京都以外の市場は凡て非課税としているのに京都だけ課税対象とするのは納得できないとして、税金を納めず、供託したのである。わが下京署では、筍は竹があって松茸は松があって始めて生ずるもので、いわば果実であって、法にいう「そ菜」に当たらないという解釈であったが、他の5大都市の税務署は筍も松茸も果物屋ではなく、八百屋で売っているのをみても「そ菜」の仲間であると認定し非課税としていた。
 私は、困って大阪国税局の見解を求めたが、京都のこの2つの取引額が少なくないので、非課税とするのは惜しいし、といって大阪、神戸の二署に新しく課税を命じるのも大へんだということから、なかなか判断を下さない。思い余って、私は、国税庁の関税部に照会したが、ここでもなかなか判定をしない。そのうち、私が本省転勤となってしまったが、後で聞くと、結局、非課税として、供託した金は仲買業者に返還されたという。
 これは、ほんの一例に過ぎないが、他の非課税品目についても争いがあるものもあり、第一、余りにも関係業者の範囲が広く、又、課税を回ってトラブルが多発したので、ついに、昭和24年12月をもって廃止されることになった。天下の悪税とさえ謗られたのである。
 さて、今回、もし消費税の税率が引き上げられることになった場合、軽減税率を設けるとなると、似たような議論が必ず起ってくると思うし、そのことは覚悟しなければならないと思う。
 だからといって、私は、今直ちに軽減税率を設けることに反対しているのではないが、できれば、設けない方が良いと思っている。
 読者諸賢如何に思われるか。

2010.6.28 相沢英之