相沢英之公式サイト
活動報告
地声寸言『ホテルあれこれ』

 役人、議員、弁護士と職業が変わって来たが、物心ついてから今まで数十年あちこちでホテル、旅館にはお世話になっている。
 ついこの間、ロス・アンジェルスで開かれた国際ロータリーの世界大会に出席して帰国したばかりで、この欄ではいつもとは違うホテル談義をさせていただく。
 大蔵省の役人時代はドメステイック派であったから、国内は四十七都道府県に足跡を残しているが、外国は長い勤務期間の割には訪ねた国の数も少ないし、その後の議員在職期間も含めて訪ねた国は五十ケ国ぐらいである。
 それにしても、泊ったホテルの中にいくつか印象深いものもあるし、ホテルの良し悪しについて感じたことも少なくないので、そのうちの幾つかを述べてみる。
 まずは、景色。部屋からの眺めである。昔と違ってこの頃のホテルは一階はともかく部屋の窓は殆ど開けられない。窓の外にヴェランダがあって、椅子などもあり、ゆっくり景色を眺められるホテルもあったが、滅多にない。
 われわれにはどうせ部屋は夜寝るだけの御用となっているから、窓からの景色などどうでもいいと言う人もいるし、そうとも思うが、景色はいい方がいいに決まっている。いつか広い通りの交差点近くのホテルに泊ったが、ここは一晩中うるさかった。中庭に面して建物がとり囲んでいるホテルもあるが、気をつけないと、こちらから他の部屋も見えるが、向こうからも見られているに違いない。鳥の巣がヴェランダにあって、可愛かったが、バタバタやって結構うるさいところもあった。
 時に、夜明けに眼を覚ますことがある。初めは赤く、そして黄色と刻々明るくなって行く街を見下ろしながらカメラのシャッターを切り続けたこともある。
 部屋は広い方がいいが、余り広過ぎるのもどうかと思う。札幌の某ホテルのスイートに入れられた時は広すぎて、ベットは隅にちょこんと見えるくらい。次の部屋、次の部屋もあって、持参のトランクの中味をあちこちに置いたがいいが、置いた場所を忘れて、探し回ったのに疲れたことがある。飛騨で天皇が泊まられたという部屋に案内されたが、和室、洋室、控えの間に茶室などこれ又広すぎてまごまごした。
 といって、余り狭いのも嫌で、ビジネスホテルのシングルベットにユニットバスのまことに小じんまりした部屋は籠に入れられた鳥みたいな感じがしてお断りだ。
 ところで内部の装置だが、先ず明かり。私は自室のトイレにも百ワットをつける程明るい部屋が好きだが、ホテル、それも古いホテル程暗い。大体ヨーロッパのホテルは暗くて、アメリカ系統のホテルは明るいのが多い。
 さて、問題はスイッチで、近頃はキーも紙になって了ったが、そのカードを入口の傍の所定の場所に差し込めば一発でパッと凡ての電灯がつく仕掛けが多くなった。そうでなくても、ベットのサイドテーブルに照明のスイッチが幾つも並んでいて、ラジオやテレビと同様に、そこでつけたり消したりできる。
 私は、夜寝る前には眠り薬のように必ず本を読む習慣がある。どうも適度な明るさをもったランプにならないところもある。いつも泊まる鳥取のホテルもそうであったので、眠る前に持参の電球を取り換えることにしていた。
 ホテルはまあまだが、日本旅館は寝て本を読むようになっていないところが多く、枕電灯がなかったり、あってもボンボリぐらいの明るさだったりする。此の頃、航空機の読書灯のようにスポットで強く照らす装置に遭うこともある。
 次はエアコン。日本よりも北に位置している国の多いヨーロッパでは以前クーラーのないホテルが多かった。夏も涼しいからであろう。ところが、アメリカもそうだが、白人の多いホテルの部屋は大体クーラーが利きすぎている。友人の曰く、欧米人は皮下脂肪が厚いので、夏の暑いのはこたえるからだという。本当かな。東南アジアの、例えば香港やシンガポールのホテルのクーラーのききすぎること。あの方面に出かける時はセーターやカーデイガンを必ず携帯することにしている。
 逆に冬のホテルの中は所によっては暑いくらい。昔、スイスのグリュンデルバルトの小さなホテルに泊った時は、暖炉で薪を焚いていたが、アットホームな調度と合って忘れない暖かさであった。
 ホテルのエアコンの温度調節はかなりいい加減なところも少なくない。きちっと設定した温度にコントロールしてくれるところは少ないくらいである。この点概して日本のホテルの方が良くはないか。
 次に、バスルームである。温度や湯の強さの調節の装置が一定でなくて戸惑うことがある。水と湯が別々に出てくるものもあって、下手をするとやけどをする。タオルもホテルのものは無暗に厚手のものが少なくない。上がりタオルはいいとして小型のタオルは身体を洗うには厚すぎて、絞るのに往生する。洗面台の上は概して日本の方が親切である。シャンプー、コンディショナー、ローション、ボデイローション、ヘアリキッド、ヘアトニック、櫛、ヘアブラシ、楊子、歯みがき、綿棒、石鹸、キャップ、剃刃、シェイブ用クリーム、アフターシェイブローションなどと手ぶらで行っても不自由はないが、外国のホテルには歯ブラシ、剃刃などのないところが多いので、忘れないようにしているし、温泉旅館がくれるような薄い手拭いも持って行く。肌にソフトで取り扱い易い。
 次にスリッパ。昔は外国のホテルは航空機と同様殆どなかったように思うが、この頃は大てい置いてある。それでもふにゃふにゃして履き難いようなものが多いので、家から携帯して行くこととしている。この点は航空機も似ていて、外国のものは、厚手の靴下みたいなものを出してくれるが、トイレなどはいささか気持ち悪い。日本の航空機は曲がりなりにもスリッパである。
 次は、大事な食事。概してアメリカのホテル、量は実にたっぷりしているが、余りうまくない。かってあるアメリカ人にアメリカの料理はうまくないと言ったら、彼答えて曰く「あなた方は1ドルか2ドルの料理を食べているからダメ
なんで、五十ドルも出せば実においしいフランス料理が食べられる」とのたもうた。何をかいわんや。50年も昔のことである。
 エレベーターなどで並んで立つと、外国人との背と体格の差に驚かされる。こんなのと喧嘩したらとても勝てないな、と思う。しかし、彼等は肉から何から燃料を余計焼いてガンガン走るから、早く疲れて、日本人は反対だから、細く長く生きるのかな。神様は案外公平なのかなと思ったりする。
 外国のホテルにはガウンが必ずあるが、パジャマはない。日本の旅館の癖でつい忘れたりする。
 余り長くなったので、これで一先ずペンを置くが、概して日本のホテルの方が外国よりキメ細かくサービスが行き届いている。
 ところで、ホテルの料金だが、ここ2、3年特にユーロ圏のそれはバカ高くなったと思いませんか。昭和30年、私が一人で約二ヶ月間欧米へ出張した時は一泊3ドルから3.5ドルがホテルの料金であった。無論ヨーロッパは朝食つきである。1ドル360円のレートの頃であったから、まあ一泊千円というところがであった。それが、この頃は何と5、6万円から7,8万円は無論泊るグレードが大分高くなっているかもしれないが、それにしても高い。以前は日本のホテルは高い高いと言われていたが、今やそうでもないどころか、逆ではないか。
 インフレはここへも確実に進行していると思うが読者諸賢如何に思われるか。
(相沢英之)