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活動報告
大蔵週報 地声寸言『ちょっと一言ずつ』

 その一、日銀総裁を誰にするか揉めている。日銀の政策決定は九人の合議制で、総裁も一票を持つに過ぎないが、副総裁の二人は総裁と同じ票を投じるし、他の委員も総裁の考え方を注目しているだろうから、やはり誰がなるかは政策の方向に影響する。
 ただ、誰かが言ったように財金分離の原則で財務省出身というだけの理由で武藤氏はダメだというような意見を吐く人もいるが、それも何だか幼稚で、両者の相関性を考えれば、与しえない。
 大体、先に日銀法を改正する際に、日銀が独立性を言い過ぎた嫌いがあって、法王庁を各省なみに格下げにしたような気さえする。日銀総裁となれば、昔は五ヶ月の通常国会中、予算委に一、二度参考人に呼ばれるくらいであったが、近頃は無闇に呼ばれるし、ひどい時は、時間がなくなったと質問もなしで退席させられることすらある。総裁の値打ちも下がったものである。
 もう少し超然として、政府や国会に余り干渉されずに金融政策を改定できるようにしたいと思っているだろうが、まあ、今となっては、そうも行くまい。
 考えようによっては、日銀も広い意味の政府の一機関で、総裁も総理の任命だから、元来政府の言うことを無視できないので、丁度いいかもしれない。
 ただ、あの改革以来、総裁以下の役員の給与がぐんと悪くなり、支店長の公邸などがなくされるようになったのは、思わぬ副産物であったが、いささかお気の毒である。民間の大銀行の行員などの給与に比べれば日銀は高いものだ。
 その二、石油が一バーレル百ドルを超えるという異常な事態となった。あの昭和四十八年のオイルショックの時も四〇ドルを超えて五〇ドルになったらそれこそ大変だと言われていたが、そうはならなかった。
 従来なら、オペックが増産を決めて油の価格が下がるという構図なのに、とんとその気配はない。需給で価格が決まるという姿ではなく、国際的なオイルマネーなどが投機資金となって油高を招き、それで生じた過剰ないわばあぶくゼニが又投機資金となって油の価格を吊り上げるという恰好ではないか。
 どうして世界各国から強い批判が上ってこないのか、と不思議でならないが、何、国によっては石油成金となってホクホク顔なのだから、却って議論をしても決論がなかなか纏まるわけがないのだろう。
 資源外交で日本に色目を使っていたのではないかと思っていたロシアの政府なども、何だか鼻息が荒くなって来ているのは、石油とかと、それに金まで大幅に値上がりしている余祿を享受しているせいであろう。
 持つべきものは女房なりと言うが、今や、国として持つべきものは油などの資源であって、その肝心な代物(しろもの)に恵まれない日本などは可哀想なものである。
 せめて、教育制度でもしっかり建て直し、学生の智的水準を上げ、せいぜい頭を使って資源不足に対処しうるような政策を呼号すべきではないか。
 あの、ゆとりある教育だなどというバカな方針を変更することとなったのは慶賀すべきであるが、まだまだ教育改革は必要ではないか。ノーベル賞受賞者を何人生むことを目標とするというような下世話に碎けたような考え方は棄てて、本当にインド人もびっくりというようなエリートを育てる教育方針を樹てて貰いたいものだと思っている。
 その三、新銀行東京―俗に石原銀行が破綻に瀕して、この度四〇〇億円の追加出資が要るというので、予算を出したが、議会で揉めているという。
 ただ、思うに、あの銀行は初手から儲けることを目的としているものではないと思う。尤もただ損をする積りで始めたものでないことも勿論であろう。
 ただ、あの銀行がレーゾン・デートルを示そうとすればする程、市中の一般の銀行がなかなか相手にしてくれないような対象や計画に貸すわけであるから、リスクが高いのは当り前だと思うべきである。  ただ、これから先は当てずっぽうで、間違っていたら御免なさいと言うしかないが、ロクな審査もさせないで、あれと言うような会社や事業に貸しつけた責任の一半、と言わないまでも一部は、今、石原知事に文句を言っている都議会の議員諸君の行動にもあったのではないか、と思っている。
 下司の勘繰りが当たっていなければ幸せであるが、えてして、こういう地方公共団体の事業は、議員の餌食になり易い傾向がある。
 幕末に武士の商法と言われ、落語にも登場するようなドジな銀行員の所業がなければ幸せであるが、もっと銀行業務に精通したヴェテランを投入して、しっかりと対象事業の審査もさせるべきではないか。それをしなければ、この度の追加出資も焼け石に水となる。
 もっとも、余り厳しくし過ぎて、市中の銀行が貸すような安全なものにしか貸さないなら、こんな官製の銀行を持ち続ける必要もなくなるだろう。難しいところである。
 私が、再々言うように銀行は質屋ではない。物的担保のあるところだけに貸すなら、質屋である。しっかり、誰が事業をするのか、どういうしっかりした計画があるのか、将来の見込みはどうなのか、などを充分に検討し、貸す時は思い切って貸す。しかし、たまには当たらないこともあって貸し倒れとなる。
 が、それでもいいのではないかと思うが、読者諸賢如何に思われるか。
(相沢英之)