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活動報告
大蔵週報 地声寸言『自分の家を』

 この頃、二百年住宅構想を耳にするようになった。福田首相は昨年十月の所信表明演説で二百年住宅の普及に取り組むと述べて重要施策の一つに選ぶようになった。
 二百という数字が長寿住宅の象徴として言われているが、一言で言えば、「耐久性のある家(戸建住宅やマンション)を建て、定期的に保守管理していくことで、何世代・何家族にもわたって一つの家を使い続ける」という住居の在り方である。
 もちろん、二百年住宅は高品質の骨組みなどを使って、耐久性や耐震性に優れた頑丈な作りにすると同時に約二十年ごとにしっかり点検をして必要に応じてリフォームを繰り返すのである。その上で、家を賣買して所有者が世代を超えて交替していくという構想である。
 政府は二百年住宅を普及させるためにさまざまな施策を打ち出しているが、平成二十年度には一三〇億円を投じて助成制度を設け、二百年住宅の建築に補助金を支給する方針であり、又、固定資産税の軽減を考えているという(以上、日経一月十三日の記事を引用)。
 本当に、とくに木造の家など、そんなに長く持つのだろうか、という疑問が先ず湧いてくる。
 実は、私の亡母の実家は神奈川県の湘南地方にあるが、築約四百年と言われている。主屋に続く別棟は新書院と呼び、事ある時は客間に使われ、常日頃は暇があると伯父が定石本を手に碁を打っていたところであるが、これが築二百年と言われている。
 広間の中央には囲炉裏が切られていて、自在鍵にはいつも大きな鉄瓶がぶら下っていて粗朶の火で暖められて湯気を上げていた。
 高い天井には吹抜け用の窓が作られていたが、年中焚かれる木の煙は天井や柱、壁はもとより、木の板戸も眞黒に染めて、黒光りがしていた。子供の頃は黒い木で、何もかも作られているのかな、と思った程である。
 惜しいかな、材料と職人が手に入らなくなって、屋根をあの重厚な茅葺きを瓦に替えたために重要文化財にはならなかったが、昔の大庄屋の家らしいどっしりとした風格のある家であった。子供の頃に見た門には、あれは何というのか乳の形をした大きな鋲がいくつも打たれていて、いかにも厳しい姿であった。
 それは、とも角として、私には、この母の実家の印象が深く、木造の家は焼けたりしなければ長持ちすると思っていた。
 もっとも、鉄筋コンクリートの家は確かに火事に強いと思うが、火が入れば、外側はともかくとして、中味は見事に焼けて了うことは、どうも木造と変らないようである。
 ところで二百年住宅は、どこにメリットがあるか、である。
 一つは、耐用年数が長くなるから、金融機関からの借り入れ条件にもよるが、当然元金の年々の償還額が少なくて済む。現在、住宅の税法上の償却年数は、鉄筋コンクリート造四十七年、木造二十二年となっている。それを思い切って延長することも可能であるが、これは逆に年々の償却額が減って有難くないとなれば、リフォーム財源の手当てにもなるように、二百年住宅奨励のため税法上の償却年数は短かくして貰えたらよいだろう。
 二百年住宅にすれば、当然資源の節約効果は期待できる。とくに日本に少ない中古物件の流通を促進する市場を整備する必要があろう。住宅流通市場における中古物件の割合は、英米では半分以上なのに、日本では一割程度であるという。
 女房と疊は何とやらという譬えがあるが、新しい家は入居した時は、たしかに気持がいいし、日本人の潔癖感にも叶うものである。しかし、戦前は、都会では大抵の人が借家で移動していたわけで、家族が増えるにつれ、或いは又地位が上って収入が増えていくに従って、より間数の多い、環境の良い場所に転宅をするし、要するに借家を転々とすることは、別に珍しいことではなかったし、ある種の上手な選択が生かされていたのだと思う。
 も一つメリットとも考えられるのは、資源の節約である。
 国交省によると、日本の住宅は平均して建造してから約三〇年で解体されているが、英国が七七年、米国は五五年と言われているのに比べると短命ぶりが目立っている。
 住宅の解体や改築で出る廃棄物は国内全体で年間約千四百万トンに達するとも言われている。解体と建築を繰り返すよりも、耐久性を高めて長期間使った方が廃棄物を減らすことができるし、もし假に国内すべての建物を二百年間使い続ければ、住宅関連の廃棄物は年間一千万トン減らせるという。
 いきなり二百年住宅と言われても、面喰う向きもあろうかと思うし、私も亦、そうすぐ、大規模に実施することは困難だと思うが、せめて百年住宅を目指して、いろいろな問題点を煮詰めつつ、対策を絞って行ったらいいのではないかと思っている。  独立行政法人都市再生機構、独立行政法人住宅金融支援機構という、いわば、政府直轄の住宅建設関連の諸機関が行革の波に洗われ、民営化の方向へ急激に押し進められている時に、それに代り、持ち家を取得しない人が、より少い労力と資金で長持ちのする住宅を手に入れることができるシステムはないか、検討を続ける必要があると思っているが、読者諸賢如何に。 (相沢英之)