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活動報告
大蔵週報 平成19年12月28日(金) 地声寸言『三位一体を見直せ』

 地方団体間の税収の格差が拡大し、貧乏団体は財政運営もままならぬという声が強くなって、政府は、東京都などの富裕団体の法人事業税の収入を削減して貧乏団体に振り向ける方針を決めた。
 こうした方針は、地方分権の推進に伴ういわゆる三位一体なる国と地方との財源調整によって生じた地方団体間の税収の格差を見直すためのものであった。
 地方自治の伸展は悪いことではない。権限を国から地方に移譲することにも反対ではない。ただ、それにも限度はあるのであって、とくに治安、教育、社会福祉など国として国民全体に一定の行政水準を保障しなければならないような分野については地方団体でバラバラの取扱いとなっては工合が悪い。
 国の権限を地方に移譲するに当っては、当然その行政を実施するに必要な財源を付与しなければならない。問題はその具体的方法である。  補助金を削減して、地方税収に振り替えれば、假に全体として同じ金額になっても、地方団体ごとにみれば、凸凹ができるのは当然である。試算するまでもない。
 前から、私が言っているように、補助金削減に見合う地方団体への財源付与を地方交付税の増額をもっと行なっていればよかった。地方交付税は形は国から地方団体への交付金となっているが、使途に全く制限のない、その意味で地方団体固有の一般財源と考えてよいものである。地方交付税ではなく、地方税収の増額をもってしたことが誤りであった。どうも観念的に地方交付税の増額を避けたところに問題がある。  貧乏団体まで三位一体の改善を支持したことは、見通しを誤ったせいか、或いは、わかっていても「武士は食わねど高楊枝」で、改善案を支持したか、のいずれかではないか、と思う。  いずれにしても、この三位一体の改革は一つは地方団体間の税収の格差を大きくした。その原因は、増額された地方税のうち、とくに法人税と法人事業税は景気の浮沈の影響を強く受けるだけに、企業の増益が大きくなっているここ数年税収の伸びが大きい分だけ、とくに大企業の集中している大都市圏の地方団体の税収の伸びが大きくなっためである。  それで、政府、与党において種々検討の結果、一つの是正案が合意された。それによれば、年間五兆三千億円に上る法人事業税の約半分に相当する二兆六千億円を国税の地方法人特別税に分離し、都道府県に対し、譲与税として人口と従業員数に応じて再配分することになった。  ところで、総務省はそもそも、この法人事業税の調整措置は、あくまで根本的な税制改正を行うまでの暫定措置と位置ずけており、将来、景気変動に影響され難い地方消費税の拡充こそが、安定した地方財源を確保するための王道と見ていた。二兆六千億円はほぼ消費税率一%分の税収に相当する。
 他方、東京、大阪、神奈川のような、いわゆる富裕地方団体は、大都市連合を組んで、法人事業税を地方へ回すことには強硬に反対して来た。  法人事業税は、そもそも、道路整備や警察、消防などの行政サービスに必要な経費の一部を負担することを目的とした税金であって、管内に事務所などを設けて事業を行う法人が法人所得などに基づいて都道府県に納めるものである。従って、都市部の地方団体の法人事業税の税収が増えたからといって、それを地方に回すということは、受益に応じて負担という地方税の原則をゆがめるばかりではなく、昼間の流入人口が多く、大都市特有の膨大な行政需要を賄う財源を削り取るという不合理を強いることになる。  なかんずく、暫定措置により三千億円の税収減となるという東京都の石原知事は人の懐に手をつっこんで金をむしり取るのは強盗と同じ、選擧で負けたツケを都に回すものと話し、このような行為は絶対に許せないと息捲いていたが、異例にも説得に乗り出してきた福田総理との会談で、意外とあっさり、羽田空港の国際化の推進、二〇一六年夏季五輪の招致など十三項目の知事肝入りの施策の実施に国が最大限の協力することを引き換え条件として提案に応じた。石原知事の曰く「昔から言われているが、泣く子と地頭と政府にはかなわない」と。もっとも地頭と政府とは同義語だと思うが。
 十二月十二日付の東京新聞は、「法人事業税三都府県三六〇〇億円地方へ」という見出しに、「『五輪』『羽田』で国と取引」という文句を白抜きで付けている。同じように法人事業税の削減を受ける愛知県(約四百億円)や大阪府(約二百億円)は石原知事の抜け駆けを非難し、関係国会議員も反対を表明しているが、一番大株主の東京都が了承したとあっては、勝負がついたようなものである。  然し、つらつら惟るに、このような騒動の原因は、いささか観念的に過ぎた三位一体の構想に端を発するのであるから、ここで、スタートに立ち戻り、地方分権の推進に伴う国、地方の財源の在り方について、今一度客観的に数字に基づいて検討をし直すことが肝要ではないか、と思うが、読者諸賢如何に。