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活動報告
大蔵週報 平成18年1月27日(金) 地声寸言『人口減でいいのか』

 少子化現象についてはかなり前からこのコラムで取り上げて来た。私なりに警鐘を鳴らして来た積りである。
 人口減少は「悲観ばかりではない」という十二月十二日付の朝日の社説を読んだ。「真の豊かさという観点から見れば、拡大一辺倒できた戦後日本の価値観を見直し、新しい生活のありようを探る好機といえるかもしれない」とある。
 さらに「日本の人口は減っても東アジアの経済が繁栄すればどうなるのだろう。人やモノはますます国境を越えて移動する。一国だけの尺度で人口を考えてどこまでも意味があるのか疑問に思えてくる。豊かに成熟していく。そんな道を考えていきたい」と述べている。
 さて、世の中は広いから、こういう考えの人もいると思う。だがしかし、日本の人口がこれから先減り続けて行き、二〇五〇年には一億人となる、と聞いて、結構だと思う人は殆んどないのではないか。どうも、この社説は、いわば、負け惜しみ、さもなければ、国境の観念の乏しい、そして余り日本人らしからぬお人ではないかと思う。
 個人的に考えても、自分たちの子や孫がいない、乃至は少なくなってくるというのは、とても淋しいものであるし、民族としても、毎年減って、その中半分になり、三分の一になり、遂には根絶えて了うということを考えれば、本当に残念な気持になるのではないか。子孫を残したいという本能は、どんな動、植物にもあることだと思うし、又、人類は国や民族の観念を急速に溥らがせつつあるとはいえ、やはり、決してなくなるものではないと思う以上、民族の人口が減っても仕方がないという気になるものではないと思う。
 人口減は予測されていたが、厚生省が十二月二十二日発表した人口動態統計では、平成十七年(二〇〇五年)の出生数は、過去最低の一〇六万七千人、対照的に死亡者数は一〇七万七千人に増え、差し引き一万人の純減となった。正にいよいよ始まったという感じで、マスコミも一斉に少子化の問題を取り上げている。
 ここで再び、少子化対策をどうするか、である。先に記した「悲観ばかりではない」と述べている朝日の社説でも、「政府の少子化対策は、すでにメニューは出そろっている。必要なのはもっとコストをかけることではないか。社会保障費のうち、年令や介護など高齢者向けが七〇%を占めるのに、児童手当や保育所など子ども向けは四%に過ぎない。これでは少子化は止まらない」とやはり、少子化対策のコスト(国、地方でみれば公費)が不足していることを認めている。
 予算の硬直化ということが度々言われる。確かに、長い間継続している国、地方の予算は、とかく前年度に対していくら増えたか、減ったか、のいわゆる増分主義にとらわれ易い。
 従って、少子化対策を急激に増やそうとしても、なかなか思うようにならない。第一、シーリングがあって、飛躍的な予算の増額要求は出し難い。それに、各省庁内部での各局間、各課間のバランス問題があって、いくら大事だ、重要だと思われても、その項目だけの予算を急激に増額要求し難い雰囲気があり、又、査定する側にしても、いくら良いと思っても、要求以上のはつけられないという。
 そこで、政府として少子化対策が国にとっての最重要課題であると本当に認識するのなら、この事項は全く別扱いにして、充分な予算要求をさせ、査定もできるだけそれを認めていくという態勢をとらなければ、とても急速な対策は実施できない。
 もっとも、それには事前に閣議決定でもしておいた方がよい。とかく、他省庁が足を引っぱり易いからである。
 中国やインドが軈て一五億人もの人口を擁する大国になるというのに、日本の人口がいずれ一億を割り、五千万人、又それ以下となっていくというのでは、いくら頑張ってみてもゴマメの歯軋り程度に見られて了うのではないか、と思う。
 言うまでもなく、少子化対策にはこれという決め手はない。ただやるからには、厳しい財政の中で、思い切った措置をすべきである。
 生み易いように出産時に一人百万円を支給する(二子、三子は増額)、保育所を拡充し、志望者全員を収容するとともに全額無料とする、児童手当を十八才ぐらいまで支給し、支給額を月一人二〜三万円程度にする、男の育児休暇を拡大する、産婦の産休だけではなく配偶者の産休もが実効があるように拡充する、子供を持つ家庭には、例えば住宅資金の借入れを優遇するかなどなど。
 要は、ケチケチしないで、少子化対策には本当に思い切った財政措置をとることである。
 余り役に立たないかもしれないが、精神運動も行なう。戦争中は、「生めよ増やせよ」という合言葉があった。それで何の効果があったのか、と問われても、それ程数学的な答を出すわけにはいかない。が、子供を多く持つことについて羞しがらない、それでは自分も子供を持ってみるかな、といった程度の精神作興(懐しい言葉ではなりませんが)効果はあるかとも思う。
 重ねて言う、少子化対策にコストを惜しんではならない。読者諸賢如何に思われるか。